糖尿病とは
糖尿病は、高血糖を特徴として多様な異常をきたす疾患です。糖尿病では、血液中のブドウ糖を肝臓や筋肉などの細胞に送り出せなくなるため、血液の中のブドウ糖(血糖)が増え続け、高血糖状態になります。高血糖が長期間継続すると、血管はもちろん、全身の組織にいろいろと悪影響が及びます。
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation : IDF)による推計では、2015年時点で、日本での糖尿病の方は720万人であり世界第9位です。そのうち、糖尿病と気づいていない人が335万にいるとされております。
糖尿病は、1型、2型、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病の4種類に分類されます。糖尿病で一番多いのが、2型糖尿病です。その他の特定の機序・疾患によるものとは、他の原因(病気や薬剤など)により生じてくる糖尿病です。例えば、膵臓をすべて切除された方は、体内でインスリンが作れないために、糖尿病になります。こうした疾患には、いろいろなものが知られていますが、肝疾患、膵疾患などのほか、これらの疾患の治療に用いる薬物(ステロイド等)による副作用なども原因となりえます。
糖尿病の検査
糖尿病の診断は、血液検査で行います。必要に応じて、ブドウ糖負荷試験(甘い炭酸水を飲んで、その後の血糖を測定する)を行います。
糖尿病の経過観察では、血糖値やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の数値を定期的に検査していくことが重要です。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、赤血球中のたんぱく質であるヘモグロビン(Hb)にブドウ糖が結合したものです。血糖が高いとHbA1cが高くなります。HbA1cは、過去1~2ヶ月の血糖の平均を反映しています。HbA1cの測定値は、検査当日の食事の量や時間に左右されません。そのため、HbA1cは、過去1~2ヶ月の血糖のコントロール状態を知る重要な指標となっています。
HbA1c(国際標準値) 7.0%未満が、合併症予防のための目標となっています。しかし、HbA1cの目標値は、患者様の状態(年齢や罹病期間、臓器障害の有無)によって異なります。
1型糖尿病
インスリンは、膵臓の細胞(膵β細胞)で作られるホルモンです。インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)を、肝臓や筋肉や脂肪などの組織にある肝細胞・筋細胞・脂肪細胞の中に取り込ませることによって、血糖値を下げます。
1型糖尿病は、インスリンが分泌されなくなっていく疾患です。1型糖尿病では、インスリンの分泌が極端に低下するため、血液中のブドウ糖(血糖)が増加する一方で、筋肉や組織の細胞内のブドウ糖は枯渇するため、組織の細胞内はエネルギー不足になり、非常に重篤な状態になります。
1型糖尿病の約20%で、発熱・上気道炎などの感冒様症状を伴うこと、また風疹に罹患した妊婦から生まれた子供に糖尿病が多いことなどから、1型糖尿病の発症にウイルス感染が関与していると考えられています。
1型糖尿病は、発症・進行様式によって、劇症、急性発症、緩徐進行の3病型に分類されます。特に劇症1型糖尿病は、糖尿病症状がでてから1週間以内に生命にかかわる状態になるため、糖尿病症状が強い場合には、初診時に血糖・HbA1cおよび尿ケトン体の検査結果を知ることが重要となります。
1型糖尿病の治療
1型糖尿病は、インスリン分泌が極端に低下していくため、その治療にはインスリンの注射が必要となります。近年になり、様々なタイプのインスリン製剤が開発されているため、それらをうまく組み合わせていくことが重要となります。
1型糖尿病のインスリン注射は、強化インスリン療法(1日3~4回のタイミングで注射する)が一般的です。しかし、1型糖尿病の早期の段階では、1日1回の注射で済む場合もあります。また、インスリン分泌低下が著しく、血糖値の上下が激しい場合には、持続皮下インスリン注入療法(CSII)が行われることもあります。
2型糖尿病
2型糖尿病は、糖尿病の中で一番人数が多いタイプの糖尿病です。2型糖尿病の原因は、食生活や運動習慣または体質が関与しております。肥満、食事、運動などの生活習慣や社会環境が深く関与しています。2型糖尿病の中には、肥満が関係する方もいれば、肥満でないにもかかわらず糖尿病となってしまう方もいます。
2型糖尿病とは
インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)を、筋肉や肝臓・脂肪などの組織に取り込ませることによって、血糖を下げます。健常な人なら、インスリンがしっかり働くことで、血液中のブドウ糖を肝臓や筋肉の細胞内に送り込んで細胞活動のエネルギー源にしたり、血液中の余分なブドウ糖を肝臓・脂肪に送り込んで蓄えたりします。
糖尿病では、ブドウ糖を筋肉や肝臓・脂肪などの組織の細胞内にうまく取り込めなくなり、血液の中に余分な糖が溢れてしまい、血糖値が上昇します。
肥満があるとインスリンがうまく働かなくなり(インスリン抵抗性)、血糖値が上昇します。2型糖尿病の初期の段階では、膵臓ががんばってインスリンを出すために、血液中のインスリン分泌は上昇します。しかし、その状態が長期間にわたり続くと、膵臓がくたびれてくるため、最終的にはインスリン分泌は低下し、本格的な糖尿病になります。
このように、2型糖尿病は、インスリン抵抗性と、インスリン分泌低下の両方が特徴となります。
日本人は欧米人と比較して全体的にインスリン分泌が低いことが多く、インスリン分泌が弱い方が多いため、肥満の時期がないにもかかわらず糖尿病になってしまう方(肥満でない糖尿病)もいます。このような方は、家族にもやせ型の糖尿病の方がいる場合が多いです。あるいは、アルコール多飲や喫煙の期間が長い場合にも、やせ型の糖尿病となる場合があります。
いずれにしても、糖尿病が長期に渡ると、膵臓からのインスリン分泌がしだいに低下するため、血糖コントロールが困難になってきますし、合併症を来しやすくなります。
したがって、糖尿病では、早期発見が重要です。
2型糖尿病の治療
糖尿病の治療の目標は、合併症が生じないようにすることです。そのために、血糖値をなるべく正常に保ちようにします。まずは、食事療法と運動療法を行います。食事・運動療法だけで、血糖が改善する方もいます。食事・運動療法だけでは血糖値がうまく下がらない場合や、血糖やHbA1cが非常に高い場合には、内服薬やインスリン注射による治療が行われます。
糖尿病の内服薬には、現在様々なものがあります。大きく分けると、インスリン分泌を促進するタイプ、インスリンの効きを良くするタイプ(インスリン抵抗性を改善するタイプ)があります。また、最近では、血液中の余分な糖を、尿に出すことで、血糖を下げる薬もでてきております。
内服薬の種類が増えてきたため、治療の選択肢が広がってきております。内服薬をうまく調整することで、以前はインスリン注射になるような方でも、内服治療で済むことも増えてまいりました。
インスリン治療は、不足したインスリンを体外から補う治療法です。内服薬では血糖が十分にコントロールできない場合や、早期に血糖下げないといけない場合(手術前など)、あるいは肝臓や心臓や腎臓に持病があり内服薬が使用しづらい場合に、インスリン注射が用いられます。
※当院では、糖尿病専門医による専門的な診療が受けられます。
こんな症状は受診をお勧めします
- 健診等で「血糖値の異常」を指摘された
- このごろ目立って太ってきた
- いくらでも食べられる
- 急に甘いものが食べたくなる
- よく食べているのに、なぜか痩せる
- ひどく喉が渇く
- 尿の回数が多く、量も多い
- 尿の臭いが気になる
- 手足が痺れる
- やけどや怪我の痛みを感じない
糖尿病の合併症
血液の中に糖が増えすぎると、全身の血管や組織に負担がかかり、様々な合併症を起こしてきます。糖尿病の代表的な合併症は、細小血管症(網膜症、神経障害、腎症)と、大血管症(脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患)です。
高血糖が動脈硬化を起こすのは、糖が血管の内側を傷つける原因となる活性酸素の発生を促したり、組織の糖化を起こすためです。
細小血管症(網膜症、神経障害、腎症)
- 糖尿病網膜症
失明の原因の第一位は、糖尿病による網膜症です。
目はカメラと似ています。カメラの一番奥にあるフィルムにあたるところが、眼球の一番奥(眼底)にある網膜です。網膜は光を感じる細胞で覆われております。この細胞は脳とつながっており、光の信号を脳に伝えます。
網膜には眼球に栄養と酸素を補給する細かい細胞が多くあるため、高血糖が長い期間にわたって継続すると、ここに張り巡らされた細い血管が動脈硬化による損傷を受け、血管がもろくなったり、出血したりします。網膜で出血が起こると、視力の低下や失明を起こすことがあります。
糖尿病網膜症は、進行するまでは自覚症状が無いことも多いため、症状のないうちから眼科に通院することが必要です。糖尿病と言われたら、まずは眼底の検査をうけることが重要です。また、糖尿病は白内障の原因にもなります。- 糖尿病性神経障害
手足の末梢神経のダメージにより、手足の裏の痺れがでて、怪我をしても痛みが少なく気づかないなどの症状があります。また、発汗の異常や、胃の不調、便秘や下痢、排尿障害、勃起不全(ED)、たちくらみ(起立性低血圧)、足のつり(こむら返り)が起きることがあります。
- 糖尿病性腎症
腎不全による人工透析を行っている人の3分の1は糖尿病患者であるといわれています。腎臓は小さなフィルターが集まっており、このフィルターは糸球体(しきゅうたい)と呼ばれており、毛細血管でできています。この毛細血管が障害されると、糸球体がダメージを受けて、徐々に糸球体の数が減ってきます。そのため、次第に尿がつくれなくなってきます。尿が本格的に作れなくなると、人工透析による治療が必要となります。人口透析では、週に2~3回、定期的に医療機関で血液透析を受けたり、あるいは自宅で毎日腹膜透析をする必要がでてきます。
糖尿病性腎症も症状が出てからではかなり進行していますので、早期に発見することが重要となります。
大血管障害(心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患)
糖尿病により長期間にわたり高血糖が続くと、細い血管の障害だけではなく、大血管の障害も起こします。つまり、糖尿病は動脈硬化の原因となります。動脈硬化により、大血管の血流が悪くなったり、完全に詰まったりすると、様々な病気を引き起こします。
大血管障害を防ぐには、糖尿病の治療のみでは不十分であり、高血圧・高脂血症(脂質異常症)などの生活習慣病の治療も必要になります。したがって、採血検査では血糖以外の生活習慣病についても定期的に検査していく必要があります。
- 狭心症・心筋梗塞
-
心臓が動くには酸素と栄養が必要です。心臓の表面には冠動脈という血管があり、この血管が心臓に酸素と栄養を送っています。冠動脈が動脈硬化を起こし、内部が狭窄あるいは完全閉塞すると、そこから先の心臓の筋肉には酸素が供給されなくなり、心筋がダメージを受け、狭心症や心筋梗塞を発症します。心筋梗塞の典型的な症状は、胸が強い締め付けや痛みです。しかし、糖尿病の神経障害がある方では、典型的な症状が出ずに心筋梗塞を起こしているにもかかわらず胸痛がない場合があり、これを無痛性心筋梗塞と言います。
- 脳梗塞・脳出血
脳血管の動脈硬化が起こり、血管の内腔が狭くなると、そこから先に血液が届かなくり、脳梗塞を起こします。また、脆くなった血管が破たんすると、脳出血を起こします。脳梗塞の症状は、障害を受けた脳の部位に応じて様々ですが、半身麻痺になったり言語障害や認知症を起こしたりします。
- 末梢動脈性疾患
足を養う血管が高血糖による動脈硬化でダメージを受けると、足への血流が悪くなります。足への血流が悪くなると、足が冷えやすくなったり、足の皮膚の色が悪くなったりします。また、足の筋肉への血流がうまくいかなくなると、間欠性跛行(しばらく歩くと足が思うように動かなくなり、休むとまた歩けるようになる)が生じたりします。
妊娠糖尿病
妊娠中に初めて糖代謝異常を発見され、しかも糖尿病にまではいたっていない場合を、「妊娠糖尿病」といいます。妊娠中に初めて発見されたが、すでに糖尿病の状態にまで至っている場合は、専門用語では、「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」といいます。
妊娠糖尿病の原因
妊婦では、胎盤から血糖値を上昇させるホルモンで放出されるため、インスリンの効きが悪くなります(インスリン抵抗性と言います)。そのため、妊娠中期~末期には、血糖が上昇しやすくなります。
正常な妊婦さんでは、インスリン抵抗性に応じて、膵臓からのインスリン分泌が増え、血糖値が上がらないように調節されます。しかし、妊娠糖尿病では十分なインスリンが分泌されないため、高血糖となります。
妊娠糖尿病の合併症
妊娠糖尿病では、母体及び胎児に様々な合併症が起こる可能性があります。胎児には、過体重児、新生児の低血糖が起きることがあります。また、流産のリスクも上がります。
妊娠糖尿病の検査と診断
妊娠糖尿病のスクリーニングは、妊娠初期から開始されます。随時血糖値が100 mg/dL以上の場合には「ブドウ糖負荷試験」を行います。日本産科婦人科学会のガイドラインでは、「100 mg/dL以上」の代わりに「95 mg/dL以上」を用いてもよいことになっています。
最初の血糖検査で異常が無い場合には、妊娠24~28週に随時血糖値を再度測定します。
妊娠糖尿病の治療法
妊娠糖尿病では、食事療法が治療の基本です。しかし、血糖コントロール目標に到達しない場合にはインスリン療法が必要になります。妊娠糖尿病では出産後に血糖値は急激に改善しますが、出産後にも血糖の経過観察が必要です。
妊娠糖尿病になった女性は、将来的に糖尿病になりやすいです。したがって、出産後も血糖を適宜測定して、糖尿病になっていないかの確認が必要です。